あはは(雑記)

博士学生の独り言

博士課程修了後のキャリア

D2も終わりということで博士取得後の進路について少し考えてみる.

博士課程修了後の進路として,純粋なアカデミアとしての道を歩むのか,それとも一般企業に進むのかというのは誰もが悩む問題だと思う.アカデミアのキャリアの魅力はやはり自分の専門分野かつ,自由度が高い研究を続けることができる点だろう.指導教員や周囲の研究者を見ていても,自身の専門分野かつ独創的な研究で,世界に成果を発信し続けられる仕事は本当に楽しそうで魅力的な仕事だとつくづく思う.一方で,給与面,安定面に関しての魅力はあまりないと思われる.

 

純粋なアカデミアの一般的な博士終了直後の進路としては,以下の選択肢が挙げられる.

①学振PD

②海外学振

助教

④プロジェクト雇用のポスドク

③の即助教になれるのは一握りの,業績が豊富かつ運が良い一部の人が選べるキャリアであり,ほとんどの人は①の学振PDか②の海外学振を経て,助教の公募に向けて業績を積むのだと思う(実際周りを見てもそのパターンが大半である).

とはいえ,学振PDに全員がなれるかというと,そういうわけではなく学振PDの採択率は20%~30%くらいで,まあまあな競争を勝ち抜かないといけない.

海外学振も同様で20%程度の競争を勝ち抜かないといけない.海外学振は若手の助教なども出せるため学振PDよりも更に厳しい競争である(ように思える).

④のプロジェクト付き雇用はコネが重要になってくるし,場合によってはひどい待遇で雇用されているような噂も聞く(周りにあまりいなく人づてで聞いた話なので実態はよくわからない).

 

民間企業の選択肢としては,アカデミアよりの国立研究所(産総研JAXA,etc..)から民間企業の研究職,コンサル,などかなり幅広い選択肢が存在する.最近の民間企業は博士採用も積極的であり,周りの博士学生を見ていても民間企業の就活で困っている学生はあまり見ない.製薬系、化学系の学生では最初から製薬企業の研究職を目指して博士課程に進学している学生もいるくらいだ。

 

民間企業の魅力はやはり給与面,安定感だろうか。ただ、民間企業では研究を確実にお金に繋げる必要が出てくる。自分の専門分野の自由な研究がほとんどの確率でできなくなってしまうのがネックではある。

 

 

給与面について考えてみる.

最近の賃上げラッシュで民間企業の初任給は軒並み上昇している傾向にある.大卒初任給はおおよそ,23万5千円,院卒では26万5千円ほどが相場だそう.

news.mynavi.jp

 

仮にボーナスが4カ月~5か月分としたら,2年目で大卒では400万円,院卒では450万円くらいだろうか,残業をすればもっと高くなるだろうし,当然これよりもかなり多い金額を貰える企業もある.

 

一方でアカデミアの事情はどうだろうか.助教になると話は変わってくるが,少なくとも学振DCの給与は月額20万円で,ここ20年ほど額面が上がっていない.そして,毎年の流れを見る感じ,今後も額面が上がることはなさそうだ.学振DCの手取りは税金と国民健康保険料,年金を支払うと16万程度しか残らない.学費を支払ったら12万を切る.一人暮らしすら満足にできない金額で,大学時代の同期と比較すると非常にみじめだ.

ただ,まだ学生という身分からすると給与を貰えるだけありがたいので,学振DCは許容できる.

 

ただ,学振PDはどうか.学振PDの月額の額面は36万円.額面として年間430万円である.博士の学位取得後に30歳までこの金額で満足できるかどうかは人によるが,客観的な事実として,2年目の修士卒,下手したら学部卒よりも低い給与である.博士課程に進む学生の多くは旧帝大や有名私大の学生が多いため,学生時代の同期と比べるとかなりみじめな給与額面だと思う(大学時代の同期に中には30歳あたりで,1本に乗りそうな感じみたいな人もけっこういる).給与面でみじめな博士課程を3年間送った中で,学位取得後も,この額面で更に3年間みじめな思いをしないといけないのはさすがに精神的にきついと感じる.また,物価の値上がりと,企業の賃上げが進む中で,全く賃上げの兆しが見えない学振PDという選択肢は年々選びづらくなっているのが学生目線の本音である.実際に,その結果が学振PDの応募者数の推移に表れていると思う.

www.jsps.go.jp

2020年度:1922人

2021年度:1800人

2022年度:1705人

2023年度:1565人

2024年度:1489人

こんなにきれいに下がっていくもんなんだなと感心している.数値計算の残差がこのペースで落ちてくれたら本当に気持ちがよくなりそう.民間企業が博士課程の学生の採用に積極的になってきたこと,民間企業と学振PDの給与格差が年々拡大していることが原因だと思う.

 

給与面以外でのネックはやはり任期付き(非正規の雇用)になることだろうか.3年で所属を確実に追い出されてしまうので,転居などの事情が確実に生じてしまう.仮にパートナーや配偶者が仕事を持っている場合などに,研究を続ける場合には確実にパートナーの仕事を犠牲にする必要がある(同居する場合には).もしくは別居婚や遠距離での付き合いになるだろう.

 

給与が低いかつ,職の保証もない非正規雇用である事実は,結婚や子供などライフプランの変化が大きい28~30歳には非常に厳しい問題のように感じる.すでにパートナーがいる場合、人生のステージを進める際にこれらが障壁になる可能性もあるだろう。仕事の条件的にはモテない条件のオンパレードなので相手がいないくて、これから探そうと思ってる場合は更に大変だと思う。

 

続いて、キャリアの観点から博士学生の自分から見えるそれぞれのキャリアの感覚を述べておこうと思う。近年は中途採用が盛んになってきており、新卒学生も大企業志向は徐々に薄れつつあり、スキル重視でファーストキャリアを選択する学生も増えているように思う。

 

アカデミアでのキャリア経験(助教ポスドク等)がどの程度、民間企業で評価されるのかというのが博士学生の自分には見えないでいる。アカデミア経験は社会経験にカウントされないという話も聞いたことがあるくらいだ。また、特に日本の若手のうちの採用市場は年齢が非常に重要視される。これは、日本企業の採用体系が従来の終身雇用を前提としたメンバーシップ型の採用体系から十分に脱却できていないからだろう。これらを踏まえると、安易にポスドクの道を選択してしまうと社会経験もないまま年数を浪費してしまい人生そのものがおかしな方向に向かってしまう危険性もある。

 

ただ民間企業の博士やポスドクへの見方が少しづつ変わってきているのは感じている。少子高齢化に伴う労働人口の減少や世界での相対的な競争力の低下から日本の企業も危機感を感じているのかもしれない。このことから特に20代のポスドクの採用事情は今後悪化することはないんじゃないかと勝手に考えている。

 

ここまで,つらつら書いてきたが,結局のところ色々と人生を考えてしまうと学振PDなんていう選択肢は取れないなぁと感じる(そもそも通るかどうかも怪しい)。特に将来のことは考えず何とかなるだろうという気持ちで飛び込むしかないのだと思う。将来のアカデミアでのキャリアの確度、学振PDに出せるくらい自信を持つためには、D2までに十分な業績を詰むしかない。まあ,私にはそれができなかったので,完全に自己責任ではある.これから博士課程に進む学生には反面教師にしてほしい.

 

後は,学生時代にパートナーを見つけておくと精神的に大きな支えになると思う。不安定な人生を許容してくれ、共に人生を歩んでくれるパートナーほど貴重な存在はいない。学振PD等で学位取得後にアカデミアの道を決めている人はパートナーを見つけておくことを個人的におすすめする(見つけろと言われて見つけられるものでもないが)。

 

ただ,個人的には学振PDの待遇をよくしろとか提言したいわけではないです。学振PDの待遇に不満があるなら,ほかの選択肢を選べばいいだけだからです。実際に申請者も順調に減っていっているし,このまま進めば10年後くらいには制度そのものが破綻して待遇を改善せざるを得ないだろうと思う。

 

最後に,客観的な事実から個人的な感想を書いただけなので,特に制度の仕組みそのものを否定するつもりはない。3年間,好きな研究者の下で研究課題を遂行し,研究者としてのスキル、研究の幅を広げることができるのは非常に魅力的で素晴らしい制度だと思う。

 

このまま研究を続けたいけど現実的に厳しい点もある.ただ自由な研究を続けるには勇気を持って一歩を踏み出すしかない。進路の選択で揺れる博士学生のつぶやきでした。